のんびり寄り道人生

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なぜ直感のほうが上手くいくのか?

 2010年6月発刊と少々古いが、単行本『なぜ直感のほうが上手くいくのか?』がとても面白かった。著者であるゲルト・ギーゲレンツァー Gerd Gigerenzer は、マックス・プランク人間発達研究所の適応行動・認知学センター所長であり、世界の科学・研究賞の数々を受賞している研究者だ。本書の主張はタイトルから予想されるとおり、ずばり「直感のほうが上手くいく」ということなのだが、ただ「いつも直感に従えばよい」という直感礼賛書ではなく、「いつ直感に従うべきか」を、一般人の読者層に向けて分かりやすく具体的な例で提言している。

自分の直観を信じてもいいものか?この疑問に対する答えが、懐疑的な悲観主義者と熱血派の楽観主義者の分かれ道だ。

楽観主義者も悲観主義者も結局のところ、勘も、外れさえしなければ、結構当てになるというところで納得しがちだ。それはそうなのだが、たいして役に立つ見解ではない。つまり、本当の疑問は、果たして自分の直感力を信じても良いものか?ではなく、どんなときに信じても良いか?ということになる。

 本書では類義語を下記のように定義している。(※太字、下線は引用者による)

 

一瞬で意識にのぼる判断

:基になっている理由が自分でもよくわからない判断

:行動に移すに足る確固たる判断

 

 著者は数々の研究成果を引用しながら「直感:一瞬で意識にのぼる判断」の原理となる「ヒューリスティック(経験則)」の有用性について証明し、状況に応じてこの新しい合理性を活用した生き方を読者に提言している。

 ウィキペディアによると、

ヒューリスティック(英: heuristic, 独: Heuristik)とは、必ず正しい答えを導けるわけではないが、ある程度のレベルで正解に近い解を得ることができる方法である。ヒューリスティックスでは、答えの精度が保証されない代わりに、回答に至るまでの時間が少ないという特徴がある。

 ちなみに本の主題となる研究内容も実に興味深いが、それ以上に著者自身の感性がよく現れている文章表現を粋に感じた(翻訳された小松淳子氏の力量も大きいだろうと思われる)。果たして、こういう俊才の目に世界はどう映っているのだろう?言語の問題はさておき、拡張現実(Augmented Reality)の技術が可能であれば、自分とは違う見方(もちろん憧れの人が対象)に同期してみたい。例えば読書体験。ARの技術によって、読者の理解に委ねるだけではなく、著者の脳に同期して、著作には「(意識的に)書いていない」「(無意識で)書かれていない」ところまで仮想体験できないだろうか?よく著者が著作の宣伝に際して「あらすじは○○ですけれど、読者の皆さんの解釈で自由に読んでください」と言うことがある。(読者層を狭めるような発言はマーケティング戦略としてはNGだろうし)著者が自身の考えを読者に押し付けたくないという気持ちも分かるが、やはり一読者としては「答え合わせ」がしたい!そんなワガママに対して著者は「それは本にしっかり書いてあります。(できるだけ買って)読んでください」と言うかもしれない。確かに中には「これでもか〜」と主張を押しつけてくる鬱陶しい本もあるが、読み終えた後も「結局著者は何が言いたいのだろう?」という著者の主張がぼんやりしている本もある。こちらの理解が悪いと言われればそれまでだが、先のAR技術による読書体験ができるなら、著者の視点でもう少し深い理解ができるかもしれない。

 現在、大学図書館、公立図書館のインターネットサービスを駆使して、1週間で4冊程読む習慣ができた。読書量が増え、直感によるヒューリスティックを駆使しているせいか、読んでいる途中で「つまらなく感じる」本を選ぶことはあまりなくなった。しかし、たまには自分の好みを外れた面白い本に出会いたい。それを可能にしてくれる科学技術がそのうちできることを期待したい。(ちなみにAmazonではプレゼントで幼児書を買うことが多いため、オススメされるのは専ら幼児書ばかりだ)