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韓国映画『1987、ある闘いの真実』

 韓国映画1987、ある闘いの真実』を観た。

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 本作は、今からたった31年前の出来事とは思えない「韓国の民主化闘争」という、歴史的な実話を元に制作された映画だ。看守役と、その姪である女子大生役以外、主要な登場人物たちは全て実在した人物だという。また、1987年当時を知る多くの観客たちを意識して、できる限り忠実に当時を再現しようと時代考証を重ねたらしい。45,000坪の敷地に大規模なオープンセットを組み、CG技術も取り入れながら当時の街並みをリアルに再現し、衣装やメイクにも当時の流行を取り入れるなどして、こだわったそうだ。

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(映画のあらすじ・ネタバレあり)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 1980年代の韓国において、長らく軍事独裁政権が続いていた。そして共産主義撲滅の名の下に、保安当局(警察の一組織)によって反政府主義者・民主化運動家が強圧的に検挙・逮捕されていた。そんな中、民主化運動の先導者につながっていると目された一人の大学生が当局から激しい拷問を受けた末、死亡した。だが、当局トップは民衆の蜂起を恐れ、”真実”の隠蔽を画策した。

 そんな中、大学生の死亡理由が拷問死であったことを見抜いた、ある”異端”検事がいた。徹底的に隠蔽を図る上層部の指示に猛反発し、裁判所命令という公的な手続きに則って死亡した大学生の遺体解剖を強行した。その結果、拷問による窒息死であることが裏付けられた。

 ”組織の論理”に従わなかった検事は、すぐさま組織を追われることになった。だが、一大ニュースの匂いを嗅ぎつけて、彼を熱心に追いかけ回していた番記者に、最後の一仕事と言わんばかりに、大学生の拷問死に関する機密書類をリークする。間もなく、世間を騒がすスクープ記事が報道されると、当局による”報道規制”や”報道妨害”は、ますますエスカレートした。

 かつて海外メディアの特派員によって撮影された、光州事件※の生映像が世界に向けて報道された。一地方都市で繰り広げられていた異常事態は、他都市に広がらないよう、当時の軍事政権によって国内メディアに報道規制が敷かれていた。だが、強い信念を持った民主化運動家らの秘密裏の活動によって、国内にも徐々に光州事件の真実が知れ渡っていった。

 光州事件※の生映像が映し出したのは、自国の軍隊によって制圧され負傷する無防備な市民たち、暴力的で破壊的な行為の数々。”自国の真実”を目のあたりにした市民らは、民主化運動に向けて本気で立ち上がった。

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 光州事件とは、1980年に全羅南道の道庁所在地であった光州市を中心に広がった、民衆による反軍部民主化要求デモである。当時、光州市に投入された総兵力数は約2万5千人であり、市民、軍、警察にも多数の死傷者が出たそうだ。当時、保安司令官であった全斗煥・陸軍少将(元・大統領)が率いる新軍部によるクーデターに抗議して、学生らが蜂起したのがきっかけだった。だが、学生らの鎮圧にあたっていた戒厳軍の横暴ぶりに、怒りを増していった市民らを巻き込んで、反軍部民主化要求デモは、ますます苛烈さを増していった。

 当時、光州事件は「共産主義国である北朝鮮の扇動による暴動」と流布されていたが、粘り強く真相究明がなされた結果、2001年には光州事件の関係者を民主化の功労者とする法律が制定された。この光州事件が、韓国における民主主義の分岐点となった1987年6月の民主化抗争(つまり本作の時代背景)の原動力となったようだ。(以上、Wikipediaを参考にまとめてみた)

 本作より一足先に公開された映画「タクシー運転手〜約束は海を越えて」は、まさにこの光州事件が舞台である。ドイツ公共放送(ARD)東京在住特派員であったドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターによって世界に発信されたスクープ映像が、デモなんかに全く興味のなかった市井の人(タクシー運転手)を主人公に据えてドラマティックに描かれている。

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 本作を撮ったチャン・ジュナン監督は、2015年冬に本作のシナリオを制作者から受け取った際、映画化の依頼については「1週間考えさせてくれ」と答えたそうだ。(以下、シネマコリアより)

 ── 政治的、あるいは歴史的な題材を映画で表現するのは、現在の韓国では難しいことでしょうか? 政権が変わる前と後では何か変わりましたか?

 作品のオファーを最初にいただいた時は朴槿恵(パク・クネ)政権下でしたので、シナリオの脚色を秘密裏に行わなければなりませんでした。これは実話に基づいているので、本来であれば生存している人物にインタビューすることが基本ですが、できませんでした。私たちがこういう映画を作っているという噂が広まっても、不利益や妨害があるかもしれないと危惧しました。私たちは可能な限り、紙の資料をたくさん集めて作業を行いました。作っている間も、無事に完成させてお客さんに届けられるのかとても心配でした。1987年は、本当に奇跡のような出来事があった時代と言えますが、私たちが映画を作り上げたことも、同じく奇跡的なものだったのではないかと思います。
 製作当時、政治の世界では、私たちがコントロールできないような状況が次々に繰り広げられていました。崔順実(チェ・スンシル)ゲートが明らかになって、政権の腐敗が発覚し、その後政治的な状況がダイナミックに転換していきました。一方で、俳優の皆さんが勇気を出してこの作品に参加する意思を表明してくださいました。そういった皆さんの力が合わさることによって、この映画を届けることができました。本当に奇跡的なことだったと思います。私は迷信を信じませんが、時折、誰かが見守ってくれていたのではないかと思うことがありました。映画の封切りの頃はかなり状況が変わっていました。公開数週間後、文在寅ムン・ジェイン)大統領が実際の遺族の皆さんと映画をご覧になりました。

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 話は少し脱線するが、2017年3月10日に弾劾裁判により大統領職を罷免されるまで、父親の独裁政治を朴槿恵(パク・クネ)前政権も受け継いでいたのか?それとも実質的には軍部の傀儡政権だったのだろうか?2018年4月6日にソウル中央地方裁判所にて懲役24年、罰金180億ウォンの有罪判決が下されたが、まだ幕引きはなされていないようだ。(以下、朝日新聞デジタルより)

 韓国で2014年に修学旅行中の高校生ら約300人が死亡した旅客船セウォル号の沈没事故で、当時の軍情報機関が世論の沈静化を狙い、遺族や同級生らの監視や運航会社オーナーへの盗聴を行っていた。韓国軍特別捜査団が6日、発表した。捜査団は拘束していた3人を職権乱用などの罪で起訴し、ほかの2人も在宅起訴した。

 遺族らを監視していたのは、今年8月に解体された軍情報機関、機務司令部。集めた情報は朴槿恵(パククネ)前政権当時の大統領府に報告していたという。

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2018年11月13日(火) 午後9時00分
アナザーストーリーズ「パク・クネ 弾劾の舞台裏~その時 韓国は沸騰した~

2年前、韓国史上初の女性大統領パク・クネに重大な不正疑惑が起きた時、韓国中の怒りが沸騰した。デモ参加者は空前の規模となる、のべ1600万人!あのスキャンダルはいかにして暴かれたのか?実は始まりは、1人の記者の地道な取材だった。彼が行き詰まった時、ライバル社が手を差し伸べた理由とは?そしてわずかな物証から大統領を追い詰めた、驚きの取材とは?大統領を罷免に追い込んだアナザーストーリー!

 

 閑話休題ハフポストのインタビューで「1987年」を舞台にした動機について、チャン監督は熱い思いを率直に語っている。

――『タクシー運転手~約束は海を越えて~』(2017)や『光州5・18』(2007)のように1980年の光州民主化抗争については、これまでも映画化されてきました。そんな中、1987年を舞台にした映画がほとんど製作されなかったのは、なぜでしょうか。監督があえてこの時代に挑んだ理由とは。

チャン監督:実は、私も同じ疑問を抱き、この映画を作り始めたのです。80年代にあった悲劇が表出したのが1987年です。独裁権力から重要な権利を闘って勝ち取った、韓国現代史におけるとても重要な部分です。それにもかかわらず、なぜ誰もその話をしないのか、と。小説や映画のみならず、学会でも語ろうとしないことに違和感を覚え、怒りを感じたりもしました。だから、必ずこの話をしなければ、と思ったんです。

また、私自身も年を重ねて子供が生まれ父親になり、次の世代にどんな世の中を伝えていくべきかを考えた時、1987年の出来事が私たちの歴史の中で美しいものを持っていると感じました。さらに、自分が積極的に社会運動に学生運動に参加できなかったことに対する負い目。そんなものが混じって映画を作り始めました。

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── 今、日本では報道の自由が侵害されていますが、そうした中で暮らす日本の観客に何かメッセージをお願いします。

(日本語で)本当ですか?(苦笑) 映画にも描かれていますが、様々な人々がそれぞれにおかれた立場において、良心を守ることがいかに重要で、大きな力を発揮するかということがお分かりいただけたかと思います。そういったことがあってどのように歴史を作り上げていくか、変えていくのかということをこの映画は伝えています。本作に登場するユン記者(イ・ヒジュン)は、独裁政権と立ち向かい、真実を報道しようとしています。また女子大生ヨニ(キム・テリ)が光州事件のビデオを見るシーンがありますが、これは『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』でも描かれている、日本でも特派員として活動していたドイツ人記者が撮影したものです。こういったものも、韓国の歴史を大きく変えました。ですので、マスコミの力がいかに重要か、再度考えていただきたいです。参考までに申し上げますと、ユン記者はその後東京特派員でしたが、働き過ぎて過労死されたそうです。

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  最後の一文は、まさに日本人向けの、皮肉が効いたメッセージだ。民主主義がベストかどうかはさておき、民主主義を巡る”闘い”は今後も繰り返し起こりうるのだろう。

 ちなみに「独裁政権と立ち向かい、真実を報道しようとした」ユン記者のように、例えば東京新聞望月衣塑子記者が日々奮闘している。ネトウヨからはインターネットで相当叩かれているし、菅官房長官の記者会見においても明らかに愚弄されている。だが、真のジャーナリストとして”忖度なしの質問”で食らいついている。そんな彼女をよそに、実質的にダンマリを続け、現政権の御用メディアと化している、その他大勢の記者連中には、ほとほと呆れるほかない。。。

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 チャン監督のインタビューにもあったが、本作の登場人物たちのように、様々な人々がそれぞれに置かれた立場において、良心を守ること、その重要性を改めて痛感した。

 闘う人たちの応援歌、闘っている人の鼓舞歌である中島みゆき/作詞・作曲『ファイト!』の歌詞を今一度噛み締めたい。

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