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スッテモリ(春香伝の獄中歌)

 韓国の伝統芸能であるパンソリ(唱劇)を現代風(歌謡曲風)にアレンジした「スッテモリ(쑥대머리)」を最近よく聴いている。センチメンタルなメロディーが心に沁みわたってくる。いろんな歌手たちが情感込めて歌っている。いくつかの動画を観たが、こちらのチョン・ソリ(정소리)氏の歌唱が一番気に入っている。(※以下の動画では最初の一曲目)

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 この歌のタイトル「スッテモリ(쑥대머리)」は直訳すると、「雑に乱れた髪」のことだが、オリジナルは李氏朝鮮時代の説話である『 春香伝(傳)』の主人公・春香(チュニャン)が獄中で歌った場面からとられている。拷問を受けても操を守り、愛する君・夢龍(モンニョン)へ想いを焦がし、我が身の悲運を嘆く、春香の取り乱した姿を表しているのだろう。

 ところで、この伝統色が色濃い”歌謡曲”を初めて聴いたのは、韓国・ソウルの仁川国際空港にある免税店街の一画であった。官民一体となった芸能のプロモーション活動のようで、演奏のあとは伝統衣装を身にまとった美男美女たちとの写真撮影タイムまで設けられていた。 

  久しぶりにパンソリ熱がぶり返した。長期出張から戻り、暇に任せてYoutubeで検索していると、韓国の国楽番組で紹介された天才少女による、しなやかな舞と、見事な歌唱に心を奪われた。なお、司会者とのデュエット曲は春香伝のサラン(愛)歌で、独唱しているのが獄中歌「スッテモリ(쑥대머리)」のオリジナルバージョンだ。

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 彼女は小学校6年生のヤン・ジニョン(양진영)さん。春香伝の舞台として有名な南原(ナムウォン)の出身である。その地で開かれた子供春香選抜大会で入賞したことがきっかけでパンソリに興味を覚えたそうだ(つまりまだパンソリを習い始めたばかりの素人)。フィギュアスケート選手として活躍し現在はプロスケーターとなった浅田真央さんのような愛らしい容姿だが、現在も師の下でパンソリの修練を積んでいるというから頼もしい。将来が楽しみな実力派に育ってほしいものだ。(追記:同時期の動画①同時期の動画②中学校1年生時の動画中学校3年生時の動画を発見!)

 ちなみに、南原春香祭のウェブサイトには(子供ではなく大人がエントリーする)春香選抜大会で優勝した歴代の春香たちと、その中から厳選されたスター春香たちの写真が並んでいる。(恐らく整形美女も一人二人ではないだろうが)その美貌と貞操観念のゆえに投獄されてしまった、春香のイメージキャラクターに合うよう、清楚系美人が選ばれているのだろう。現在、一部のイベントでは、偏った価値観で女性を選定するミス・コンテストが廃止されつつある。いつかこの春香選抜大会も韓国のフェミニストたちによって槍玉にあげられるのだろうか?ただ、こちらは伝統的なお祭りとミス・コンテストがうまく結びついているように見える。ミス春香の応募条件に伝統舞踊や伝統音楽の実技が課せられれば、伝統の継承と共に、芸能界などへの登竜門となるかもしれない。 

 以下の動画はパンソリの大家である 안숙선(安淑善)先生の名唱だ。アレンジバージョンを聴いた後だと、ちょっと華やかさがないが、歌謡曲バージョンのような伴奏の盛り立てによるセンチメンタリズムが入り過ぎていないのがよい。ピリ(笛)、チャンゴ(太鼓)、琴、チャン(唱)というシンプルスタイルが長期的には聴き飽きない気がする。

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