のんびり寄り道人生

何とかなるでしょ。のんびり生きましょう

漫画『匠三代』

 漫画『匠三代(たくみさんだい)』を読んだ。原作は倉科遼氏、作画・佐藤智一氏、原案・監修は天野彰氏。

https://www.shogakukan.co.jp/thumbnail/books/09185755

匠三代 | 書籍 | 小学館

〈 書籍の内容 〉上記サイトより

これまでなかった本格家づくりエンターテインメント!
“家のことなら、小野寺工務店に任せなさい!"
東京・深川――。江戸情緒がそこかしこに残るこの下町に幸せを招く家づくりをする小さな工務店がある。その名は、小野寺工務店。腕利きの親子三代が家づくりを手がけるその工務店はどんな家の悩みも解決してくれると地元でも評判で、細々とだが客が絶えることはない。そんな彼らのことを、地元の人々は「匠三代」と呼ぶ。

 主人公の拓己は一流大学で建築を学んだ後、有名建築家の元で世界レベルのコンペティションに明け暮れる。たとえ勝利に貢献しても虚しさが消えない。そして「住む人が喜ぶ家づくりをしたい」という原点に帰ることを決心する。やがて祖父と父が営む小さな工務店に戻り、大工として一流の腕を持つ職人気質の祖父と、経営センスを持ち合わせた父と一緒に親子三代で「住む人が喜ぶ家づくり」にこだわっていく、というストーリーだ。2010年の漫画だが、古さは感じない。下町が舞台だからというのもあるだろうが、「住む」という人間の営みが普遍的だからだろう。「住む人」、「建てる人」の視点を行ったり来たりしながら、いろいろと勉強させてもらった。

 子供の頃に住んでいた家は、入り口が施錠されておらず、いつ誰が入ってくるか分からなかった。水回りはジメジメ湿気っていて、片隅には蜘蛛の巣が張られていたりキノコ類が繁殖していた。ゴキブリが這い回る台所で食欲が湧くことはなかった。そんな時、新聞のチラシとして入っていた不動産広告が大好きだった。うっとりするような家の外観写真や間取り図を眺めながら、そこで自分が暮らす”妄想”をよくしていたものだ。テレビ朝日の『渡辺篤史の建もの探訪』や『大改造!!劇的ビフォーアフター』なども、よく観ていた。ただし理想的な住まいへの憧れはあっても、先行きの不安さから、年齢が上がるにつれ一生懸命働いても家を手に入れるだけの収入を自分が得られるとは思えなかった。やがて家を出て一人暮らしを始めた。たとえ”やどかり”生活であっても、あの頃よりはマシだった。だんだん精神が安定していった。

 昨年、念願叶って終の棲家を手に入れた。いろいろ波風はあるが、仕事も順調だ。今年の運勢は良いらしい。信じてみて損はないだろうから、前向きに考えて、いろいろなことに挑戦している。すこぶる穏やかな気分が続いている。感謝の気持ちが自然に湧きあがってくる。以前は、考えても仕方のない未来に不安を覚え、今さら取り戻せない過去をグルグル巡っていた。だが、家という”安全地帯”を自分の思うままに作っていく愉しみを覚え、感動もひとしおだ。庭で咲いた草花を部屋に飾り、時間をかけた手料理を味わう。出勤前にせっせと掃除を済ませる。休日も”怠け者”なりに動くようになってきた。

 今、実家のリフォームに取り掛かっている。ウェブにはあらゆる広告が氾濫していて、業者選定には苦労したが、ようやく工事をお願いする工務店が決まった。『匠三代』のような家族経営をされていて、職人を名乗れる大工さんがいるという。スクラップ&ビルドではなく、古さを活かす建築を謳っている、地元では有名な工務店だ。他所より値が張るものの、窓口となってくれている社長さんのコミュニケーション力の高さが決め手になった(遠方からメールでやりとりするので、きちんと文章で意思伝達できないと困るからだ)。こちらの要望や修正依頼について毎日のように送られてくる図面とにらめっこしながら”住む人”のライフスタイルを思い浮かべる。家人に後で文句を言われないように慎重に進めなければならない。よく分からない点、細かい点も気になるところは、きちんと確認する。メールでのやりとりはかなり手間だが、電話で済ませてしまうよりも、じっくり検討できる点が良い。こちらの意見に対し、先方も惜しげなく専門的なアドバイスを提供してくださる。あとはコストとどう折り合いを付けるかだ。

 余計な力が抜けボーッとしていると、蓋をしていた過去の記憶がふと思い出されることがある。昔住んでいた”あの家”を思い出したのも、そんな時だった。流れ行く雲を眺めるように、ただそれらを見つめる。そのうち忘れる。自分で自分を苦しめることはもうしない。