のんびり寄り道人生

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時の人

 学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題で「行政がゆがめられた」と訴え、すっかり”時の人”となった前川喜平(まえかわきへい)・前文部科学省事務次官の動向を興味深く追っている。

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 前川氏は茫洋とした雰囲気に柔らかい物腰で、どんな質問者(聴き手)にも気配りと配慮を欠かさないなど、その誠実さが際立つ存在だ。その経歴も華々しい。麻布中学高校・東大法学部を卒業後、国家公務員試験を上位の成績で合格し、1979年に第一志望であった文部省(現・文科省)に入省したそうだ。また在任中は、主に初等中等教育政策に携わり、2016年6月官僚トップである事務次官にまで登り詰めた超エリートだ。そんな順風満帆な人生に波風が立ち始めたのは、(噂レベルの情報によると)「新国立競技場」計画の白紙化あたりだろうか?公式上は2017年1月に文部科学省の吉田大輔・前高等教育局長らの「天下り」あっせん問題にかかる引責辞任をしている。菅義偉官房長官は当時の前川氏を評して「地位に恋々としがみついていた」と発言し、一部のメディアからは個人攻撃だと話題になった。(前川氏本人は天下りの事実を隠蔽したわけでもなく自ら責任をとって辞任したのであって、無理やり辞めさせられたのではない(むしろ慰留された)と、きっぱり事実関係を否定している)。

 世間では「森友学園」にかかる疑惑「テロ等準備罪(いわゆる共謀罪)」法案の成立に続き、勇気ある(内部)告発者と権力監視を怠らないメディア関係者らによって、この「加計学園」問題にかかる、いわゆる「総理のご意向」と書かれた文書などが大きくクローズアップされている。にも関わらず、菅官房長官ほか政権側からは”怪文書”と一蹴され、野党も決め手となる証拠を出せない中、このまま本件も逃げ切られてしまうのか…と諦めムードの矢先であった。そんな中、前川氏が声を上げたのだ。彼の真の意図は知る由もないが、渦中の文科省にあって今も最前線で踏ん張り続けている後輩たちの援護射撃を自ら買って出たのかもしれないし、『俺も頑張るから、お前ら、もっと頑張れや』ということなのかもしれない(このブログを読む限り彼を心から慕う部下はある程度いると思われる)。実名による告発、とりわけ行政トップレベルの当事者からの告発とあって、メディア報道も加熱してきた。安倍総理ほか政権与党は形ばかりのお詫びだけで、全く説明責任を果たそうとしていない。呆れた国民の怒りの声(発信)もあって、ここにきて長期安定をほこる安倍政権を揺るがしかねない事態となっている。

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 前川氏が日本記者クラブが主催する冒頭の会見において指摘していたことだが、いわゆる”御用メディア”の問題(&メディアリテラシーが育たない国民の問題)は非常に深刻である。現政権にとって不都合な諸問題が、うやむやに幕引きされることに慣れ続けた国民は、主権が国民にあることさえも忘れてしまうのではないか?諦めてしまうのではないか?と危惧している。最高権力者に関わる疑惑のオンパレードにも関わらず、今のところ隣国のような大規模な退陣デモは起きていない。もちろん疑惑の全容解明まで一筋縄ではいかないだろうが、現役を離れたとは言え、行政プロセスをよく知るキーマンの一人である前川氏の発言には、今後も注目が集まっていくだろう。

 前川氏は現役(事務次官)時代に果たすべき役割を果たせなかったこと(自己の信条を貫けなかったこと)への”悔い”が残っているのかもしれないと推測される、印象的な場面があった。終始理路整然と語っていた前川氏の声のトーンが一瞬、変わったように聞こえた。質疑応答においてNHK記者(恐らく社会部・荒川真帆氏)が「加担」という強い言葉で鋭い質問を浴びせた時だ。

以下、 2017.6.23日本記者クラブ主催 前川喜平・前文部科学省事務次官記者会見における質疑応答の一部を要約(太字・下線は引用者)

NHKアラカワ記者:獣医学部(新設)決定過程のプロセスについて疑問だ」と先程おっしゃった。「文科省は自らの責任を感じてやっていた、農水省は答えを出してくれなかった」と。聞いていると、文科省はある意味被害者だと聞こえるが、私が取材をしていると、最後は(文科省も)新設に向けて一緒に動いているわけで、加担はしていると思う。今、振り返ってみて、文科省としてできることはなかったのか?ご自身としてもトップの立場に居られた中で、やるべきことはなかったのか?

前川氏:事務次官の立場でもっとできることはあっただろう今の時点で反省はしている。しかし一方で何らかのアクションを私が起こしても結果は同じであったという気持ちもある。加担したというお話は、ある意味、正しいと思う。11月9日に国家戦略特区諮問会議が開かれ、そこで決定されることで事実上、今治加計学園獣医学部が作られることが決まったが、そこに至る経緯においては特にその1週間から10日位前の時点からは、文科省としては言わば敗戦処理的な(それを加担といわれれば加担なのだが)、「どうしたらつじつまがあう形にできるか?」という方向性を持って考えていたのではないか。それは明らかになっている文書の中からも伺えるところがあると思う。

 この質疑応答に先立って、前川氏が冒頭のスピーチの中で「一番最初に取材に来たNHKが未だにインタビュー映像を放映しない」ことに言及していたが、安倍応援団と揶揄されているNHK上層部(政治部)とは違って、ジャーナリストとしての気概を感じる若い女性記者の見事な質問であった。どの質問に対しても理路整然と誠実に答えていた前川氏であったが、自らの”悔い”をストレートに言い当てられたからだろうか?このやりとりを通して前川氏の”素”を垣間見た気がした。

 前川氏の人柄からは溢れるほどの正義感が滲み出てはいるものの、(官僚のしきたりどおり)もし諸手続きが曲がりなりにもルールどおりに進んでいたら、(たとえ安倍総理の意向により加計学園ありきの新設が進められていることに気づいたとしても)あえて異論を唱えることはなかったのではないか?と邪推するが、どうなんだろう?ちなみに加計学園と同じスキームで医学部が新設されることになったと噂される、成田市の国際医療福祉大学の案件については、以下のように記者会見で答えていた。(*6/26追記)

前川氏:私は文科省の中では高等教育には、ほとんどタッチしていない。全体を統括する文部科学審議官や文部科学事務次官になって初めて関わるようになった。それまでは初等中等教育を担当していた。成田の医学部新設の経緯は充分承知していない。ですから、この件に何らかコメントすることは私にはできない。

 

 記者会見の冒頭、前川氏は国家戦略特区という政治主導の改革の有用性を述べている。社会をより良く作っていくために、あらゆる岩盤規制を打ち抜くために、”特別扱い”によって恩恵を享受する対象を選定するにあたって、そのプロセスに透明性が求められるべきことは当然である。今後の安倍総理の対応を注視していきたい。

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