のんびり寄り道人生

何とかなるでしょ。のんびり生きましょう

鴨長明「方丈記」

  高校生の時に受験勉強で鴨長明方丈記」を読んだ。古文という言語の壁があり、当時その内容をしっかり理解したわけではなかったが、何か感じるものがあったのだろう。「将来、私も小さな庵を結んで山でのんびり暮らしたいなぁ」と、その住まい方に漠然と憧れていた。

 何となく思い立って、青空文庫で「方丈記」の全文を読んだ。原文で理解できない箇所はインターネットに掲載された現代語訳が参考になった(下記、参照リンクあり)。

 一番、有名なのは出だしの序文だろう。(以下、引用は全て青空文庫より抜粋)

行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。

 たまたまかもしれないが、受験勉強で出題されていたのは、もっぱら「無常観」「諸行無常」などに関わる一部の箇所だったようだ。安元の大火、治承の竜巻、養和の飢饉、元暦の地震、遷都など、とにかく暗い話が続く箇所は何となく覚えていた(ちなみに、このあたりで「方丈記」を投げ出すと、世をはかなむ記述が最後まで続くのでは?という、かなり偏った理解になりかねない)。だが、そこで諦めずに読み進めると、天変地異に翻弄される人々や自然の脅威を、長明は冷静に観察しつつも、時に心を痛めながら見守っているスタンスが浮かび上がる(ちなみに長明本人は没落したものの良家の出自のようなので、そこそこ食べていける程には財産や伝手があったのだろう)。まるでドキュメンタリー作家の筆致だ。

 さらに「方丈記」を読み進めると、長明の人間らしさが感じられて味わい深い。出家者として修行中の身でありながらも怠け心に負けていく様、執着はいけないと自戒しつつも、小さな草庵に心満たされている様子、人恋しい時は10歳の子供と戯れることなどが述べられている。現代ならば、”お家大好きなミニマリスト”といったところか?希代のエッセイストがシンプルライフ(貧乏生活)を飄々と営む姿は、現代の学生たちにも十分共感できると思うのだが、やはり内容が「教育的に」よろしくないのだろうか?(そういえばツイッターで流れていた新刊情報を思い出した。興味のある方はこちらをどうぞ)

2016年11月24日、池澤夏樹 個人編集 日本文学全集

方丈記」の現代語訳を担当したのは作家・高橋源一郎

www.kawade.co.jp

 ところで素朴な疑問が残る。当時、世間から相当浮いていたであろう鴨長明は誰を想定読者として、この書を書いたのだろう?一旦、出家者として世間と距離を置いたものの、人間の本能として承認欲求があった(共感を求めていた)のだろうか?巻末になるにつれて「ちっぽけな私ですが、こんな人間もいる(た)んですよ」という長明のささやかな自己主張が聞こえてくる気がする。もし現代でブログを始めたら、一定のファンを集める人気ブロガーとなったかもしれない。

 それにしても長明の住処(庵)に対するこだわりは半端ない。数々の天災によって大小問わず家々がつぶれていく様などを目の当たりにして諸行無常を悟ったせいだろうか、居を「定める」という発想はなかったようだ。何か(天変地異や火災など)があったとしても庵そのものを移動できるように作っていたらしい。また仮住まいのつもりが想定よりも長く住んでしまったと述べていたが、結局、晩年も同じ庵に住んでいたのだろうか?興味は尽きない。

 あとタイトルにもなった一丈四方(方丈)の”狭い”庵にこだわる理由が面白かった。要約すると、「ヤドカリなどの貝は移動に便利な小さな貝殻を背負っている。また蚕は自分の身がすっぽり収まる程の小さな繭の中で安らいでいる。だから(自然の理に従えば)私も小さな庵で十分なのだ」ということなのだろう。確かに小さな空間の方が私も落ち着く(広い家だと掃除が大変で、空調管理にお金がかかるという現実的な理由もある)が、単身者限定の話なのかもしれない。

 ちょうど新たな住処を探しているところだったので、余計に長明の住処に対するこだわりが我が身に沁みて感じられた。同じアパートに住まう2Fの大学生が(管理会社経由で度々注意しても)深夜に相変わらず賑やかで、家で安らげないのだ。。(我が身を振り返ると、若い頃は今以上に傍若無人だった)反省も込めて若者は大目に見てやろうと自分に言い聞かせるのだが、こちらが眠りに入るタイミングと重なるせいもあって、毎晩イライラが収まらない。

 あぁ、2017年は閑に暮らせる(できれば緑豊かな)環境を整えよう。仕事のことを考えると、さすがに山の中というわけにはいかないが、探せばどこか心落ち着ける場所が見つかるかもしれない。とりあえず行動せずに諦める、我慢するというのはモットーに反するので、新たな出費で痛む懐と、関節症で痛む脚の負担を最小限にできるよう、いろいろな可能性を模索している。今年の祈念「良いお家が見つかりますように!」

 大かた世をのがれ、身を捨てしより、うらみもなくおそれもなし。命は天運にまかせて、をしまずいとはず、身をば浮雲になずらへて、たのまずまだしとせず。一期のたのしみは、うたゝねの枕の上にきはまり、生涯の望は、をりをりの美景にのこれり。』それ三界は、たゞ心一つなり。心もし安からずば、牛馬七珍もよしなく、宮殿樓閣も望なし。今さびしきすまひ、ひとまの庵、みづからこれを愛す。

鴨長明 方丈記(原文・青空文庫

www.manabu-oshieru.com

 方丈記とは全く関係ないが、「家」つながりということでDiana Rossの歌う「Home」をご紹介したい(ちなみにここで歌い上げられている「家」は家族向けの愛情あふれる家)。本作は「オズの魔法使い 」を題材にしたミュージカル映画「The Wiz」のサウンドトラックの一曲で、Diana Rossの熱唱が胸に響く。正直、映画は目も当てられない感じだったが、Michael Jacksonなど有名ミュージシャンたちによる音楽パフォーマンスは最高だ。

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