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津田大介『情報戦争を生き抜く』

  津田大介・著『情報戦争を生き抜く』を読んだ。

publications.asahi.com.

(以下、本書の目次より)

第1章 問われるプラットフォームの責任
米大統領選を揺るがしたフェイスブックの立場
「情報汚染」に追い詰められたフェイスブック
ツイッターは何を排除しはじめたのか
プラットフォームの責任が裁判で問われる時代 etc.

第2章 情報汚染の正体
ネットは社会の分断を加速するのか
ゴシップ報道に公益性はあるのか
バッシングにおける被害と加害の非対称性
キュレーションメディア問題に見る企業の責任 etc.

第3章 生き残りを懸けた紙メディア、使命と倫理
世界中の新聞社が陥る負のスパイラル
ローカル報道衰退の代償
「AI報道」というパンドラの箱
近年の建設的ジャーナリズムの好例 etc.

第4章 信頼と民主主義を蝕むフェイク
「誰がシェアしたか」だけを信じる世界
日本でも複数のファクトチェック機関を!
後退するネットの自由度
なぜ「人間」がフェイクニュースを拡散してしまうのか etc.

第5章 ネットに蔓延するヘイトスピーチ
日本はヘイトスピーチ先進国
ニューヨーク・タイムズの新ヘイトスピーチ対策
見直し迫られるウェブ広告の構造的欠陥
日本にも波及した広告引き揚げの動き etc.

終章  誰が情報戦争を終わらせるのか

 本書は、ジャーナリスト/メディア・アクティビストである津田氏が「週刊朝日」で2016年4月から連載している「ウェブの見方 紙の味方」を基に、情報を大幅に加筆し、構成をアップデートしたものだ。インターネットや紙メディアで問題になっている情報戦争について、国内の事例だけではなく、世界各地の事例が豊富に紹介されている。各トピックは3~5ページ程度にまとめられており、キーワードも比較的分かりやすく解説されているため、メディアリテラシーを身に着けたい初学者向けのテキストとして打って付けだった。(典拠が全て示されているため、気になったテーマについては、さらに深く掘り下げて調べ、その後の経過も追うことができた)。

 津田氏は、現在起きている情報戦争の本質について、こう指摘する。(以下、本書より)

 現在起きている情報戦争の本質とは何か。それは、ソーシャルメディアの影響力がマスメディアを超えつつあることで、事実が軽視されるようになり、その結果として、論理や理屈よりも感情が優越し、分断の感覚が増大しているということである。

 情報網のインフラが整備されたことで、インターネットへのアクセスは誰にとっても容易になり、人々はGAFAのような巨大プラットフォーム/ソーシャルメディアを通して日常的に情報交換に勤しんでいる。ホワイトハウスの補佐官や顧問たちに先んじて、twitterを通じて”速報”を発信し続けるトランプ大統領など典型的だ。

著名米記者の「トランプ本」が暴露 「ノイローゼ状態」のホワイトハウス - BBCニュース

ケリー氏の前任者、プリーバス前首席補佐官は、大統領の寝室スイートを「悪魔の作業場」と読んでいる。トランプ氏は毎朝と週末にその寝室から、乱暴なツイートを連発するからだ。

 情報の流通量が急増しているのだから、それに伴ってヘイトスピーチフェイクニュースのような”情報汚染”が増えるのも必然なのだろう。世界各国でそれらを取り締まる動きが模索されているが、その責任の所在がフェイスブックなど巨大プラットフォーム/ソーシャルメディア事業者に向けられており、その公共性が問われているという。ひと昔前のグーグルのように「言論の自由」を掲げて、それらを放置すれば、今は広告主から広告(カネ)を引き揚げられる。国連の人種差別撤廃委員会や各地の司法裁判所などからの”突き上げ”もあり、彼らもようやく本気でヘイトスピーチフェイクニュース対策に乗り出したそうだ。

 津田氏は、この状況を乗り越えるための方策として以下の4つを挙げている。

  1. 「技術」で解決する。(AI技術の活用や外部の報道機関と連携し、ニュースのファクトチェックをソーシャルメディアの機能として組み込む)。
  2. 経済制裁」で解決する。(「ブランドセーフティ」という概念を広める。規約違反や倫理的に問題のある情報発信者の資金源を断つ)。
  3. 発信者情報開示請求の改善で解決する。フェイクニュースヘイトスピーチを垂れ流す発信者に、情報発信に伴う責任を取ってもらう)。
  4. 「報道」で解決する。(報道の持つ根本的な力を発揮してもらう)。

(以下、本書より)

 筆者が提示する1.~4.は、どれも問題を根本的に解決する「特効薬」ではなく、すべて「対処療法」でしかない。しかし、だからといって問題を放置していいということにはならない。どの対策も「やらないよりかはマシ」なのだから、全て粛々と進めるべきだ。(略)

 筆者が論壇委員(引用者注:朝日新聞の論壇委員)としてメディア状況を見つめてきたこの3年間の経験と、今回の欧州委員会の議論や報告を見て思うのは、もはや虚偽情報を”根治”することはできない、ということだ。対処療法をどのように組み合わせて症状を軽くするのか、その方法論や包括的な対策が求められている。回りくどいこのやり方に知恵を絞らない限り、フェイクニュースの影響力を削ぐことはできないだろう。

 情報戦争は、プラットフォーム事業者の隆盛と、資本の論理によって起こされている。いまだこれを止める有効な手立ては見つかっていない。しかし、止めるための対策は、少しずつではあるが見えてきた。

 何とも、すっきりしない結論ではあるが、今のところ「できることを全てやる」以外に対処しようがない、という著者の主張はもっともだ。あえて、もう1つ付け加えるならば、

 5.メディアリテラシーで解決する。(義務教育でメディアリテラシーを導入する)。

 情報を発信する時は、自らが「フェイクニュース」を発信していないか?誰かにとっての「ヘイト表現」を含んでいないか?チェックする。情報を受信した時は、まずは「フェイクニュース」を疑ってみる。毎日そんな調子では疑心暗鬼になり過ぎて気疲れしそうだが、「常識を疑ってみる」「当たり前のことを当たり前だと思わない」「サラッと流さない」etc.というスタンスは、科学者、ジャーナリスト、校閲者など一部の職業人たちにとって基本姿勢である。慣れれば、むしろいろんな見方が見えてきて、面白く感じることもあるだろう。

 

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オバディア氏は、AI、機械学習、拡張現実(AR)をベースとする急速に開発の進むツールが悪者に乗っ取られ、人間の模倣と情報戦争の勃発に使われる、と警告している。

 インターネット勃興期の牧歌的な時代は過ぎ去り、いつの間にか情報戦争の渦中に放り込まれてしまった。だが、今もなおインターネットを通じて様々な恩恵を享受している。この危機的状況を改善するために、私も少しは協力しようと、どの報道機関(メディア)あるいはジャーナリストを応援しようか(課金しようか)比較検討している。そんな中で再読した社会派ブロガー・ちきりんさんの「自分メディア」に対する考え方が大変、興味深かった。

 「自分メディア」はこう作る! 大人気ブログの超戦略的運営記

 この運営記の元は、2013年末に個人出版された電子書籍「Chikirinの日記」の育て方』なのだが、先見の明がある著者の考えは今読んでも色褪せない。単なるブログ運営記としてではなく、著者の思考はメディアの原点を考える上で大変、役に立った。個人を単位とした最小限のメディア(=自分メディア)について、ゆるっと書かれているものの、その運営方針は徹底している。日記(文章)を書く、自分の思考を記録することが大好きだった、小学校5年生の著者は、いつか誰かに見られるかもしれない、紙の日記よりも、誰から見られても問題ない環境(ブログ)で日記を書くことを選んだのだ。

 2005年から始めて今もなお、質の高いコンテンツで満ち溢れた「Chikirinの日記」も、試行錯誤の末に今の形に落ち着いたそうだ。いわゆる”炎上”という批判コメントによって知名度がぐんぐん上がり、読者数が増えたが、やがて的外れな批判などに付き合っていられないとコメント欄を閉鎖したという。今、著者はブログだけでなく、出版、ラジオ、講演会、対談、企業やNPO訪問など、次々と活躍の場を広げている。時流に乗った著者に見習うべきは、ブロガーだけではない気がしてならない。

chikirin.hatenablog.com