のんびり寄り道人生

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光の犬

 松家仁之(まついえまさし)著『光の犬』を読んだ。

www.shinchosha.co.jp 物語の舞台である北海道は、おおよそ縁もゆかりもない地なのだが、幾度かの旅を通して移住を切望する程の憧れの地である。残念ながら持病のせいで移住そのものは諦めざるをえなくなったのだが、この本の装画(表紙)を眺めていると、果てしなく広がる北の大地へのロマンが再び蘇ってくる。

http://www.shinchosha.co.jp/images_v2/book/cover/332813/332813_l.jpg

 「この装画は、どこの風景だろう?北海道なのか?」と、ふと思いたち、出典を辿ってみた。本の表紙裏に必要情報が記載されていた。予想を裏切り、”外国”だった。

Painting by Cornelia Foss "Wainscott Pond II" 2007

Oil on canvas, 70 * 72 inches

Collection Joanna and Daniel Rose

Photograph C 2014, Christoper Foss

Design by Shinchosha Book Design Division

グーグルマップで調べてみると、絵のタイトルである「ワインスコット池 Wainscott Pond」はアメリカ合衆国 ニューヨーク州インスコットにあった。(同じ地名は見当たらないので、とりあえずここが”正解”ということにしておく)。

 画家「コーネリア・フォス Cornelia Foss」氏についても調べてみた。彼女は1931年にドイツ・ベルリンで生まれ、ナチスの迫害により父が待つアメリカに母親と共に亡命してきたそうだ(ウィキペディアより)。また、彼女の夫はアメリカの著名な作曲家ルーカス・フォス氏。日本語で彼女の名前を検索すると、天才ピアニストであるグレン・グールド氏との愛人関係にばかり注目が集まりがちだが(映画『グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独』公式サイト)、英語で検索すると、御年86歳となる彼女が今もなお美術家として、また教育者として精力的に活動されていることが分かる。それにしても彼女の公式サイトを訪問すると、どの作品も地味な色彩の中に力強い筆致が垣間見れて、素朴な味わいだが、心惹かれるものが多かった。松家氏が本書の装画として彼女の作品を採用されたのも頷ける。

Cornelia Foss 公式サイト

『光の犬』の絵について ――武満徹グレン・グールド、コーネリア・フォス
『光の犬』の装画は、コーネリア・フォスというアメリカの女性画家の絵です。
松家さんはこの画家の絵を、「芸術新潮」の編集長時代、〈武満徹特集〉で初めてごらんになって、とても印象に残っていたそうです。

武満さんの遺品のなかに一枚の絵はがきがあり、それがコーネリア・フォスの風景画でした。

『光の犬』の絵について ――武満徹、グレン・グールド、コーネリア・フォス | News Headlines | 新潮社より一部引用

 敬愛する養老孟司先生の書評によると、

テレビを見ていたら、カズオ・イシグロノーベル賞受賞が報じられていた。そういえば、この人の作品を読むときの気分に似ている。地味な話を、なにかボソボソ呟いている。それだけのことである。

 言い得て妙だ。同じような読後感であった。ここだけ読むと、”詰まらなかった”印象だが、「久しぶりに小説を読」み、「途中で投げ出したら困るなあ」と思いながら、本書の書評を引き受けた養老先生は「一気に読了してしまった」のだという。(以下、養老先生の書評より一部引用)

 なぜそうなったか。よくわからない。途中で感動して、涙が出そうになった。私はもう80歳になるから、テレビで水戸黄門を見たって、うっかりすると泣き出す。要するに脳動脈硬化じゃないかと思うが、その説明だけでは、自分でも納得がいかない。なぜなら、意図してわかりやすく、感動的に作った話というわけでもないからである。淡々とした家族三代の物語に過ぎない。

淡々とした中に熱い想いを”ほのかに”感じる家族の物語であった。