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隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

 ルトガー・ブレグマン[著]野中香方子[訳]『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』を読んだ。(※以下のページで立ち読み可)

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 本書は2014年オランダで自費出版同然の本として出版され、アマゾンの自費出版サービスを通じて英訳されたとたん、大手リテラリー・エージェントの目にとまり、2017年には全世界20カ国での出版が決まったベストセラーだ。ちなみにオランダ語版のタイトルは『ただでお金を配りましょう』。英語版プリントオンデマンドのタイトルは『現実主義者のための理想郷』。まさに、この本の提言を凝縮した”分かりやすい”タイトルだ。なお、日本語版のタイトルは多方面で活躍した経済学者であり哲学者、フリードリヒ・ハイエクの『隷属への道』を本歌取りしたそうだ。

 著者であるブレグマン氏はオランダ出身の歴史家、ジャーナリストで、ネットメディア「デ・コレスポンデント」を立ち上げて、世界的に注目されている。

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 ブレグマン氏は”空中に城を築くこと”に人生を捧げた人物、フリードリヒ・ハイエクと、ミルトン・フリードマンという「新自由主義」の創始者二人を信奉しているそうで、彼らに批判的な今日の風潮について、まず一言物申してから持論を展開する。

 今日、「新自由主義」は左派に同意しない全ての人に対する蔑称になっているが、ハイエクフリードマンは誇り高い新自由主義者であり、自由主義の改革を、自らの責務としていた。「自由な社会の建設を再び知的冒険にしなければならない」とハイエクは記した。「わたしたちに欠けているのはリベラルなユートピアだ」

 もしあなたが、ハイエクフリードマンが強欲を流行らせ、数百万の人々を苦境に陥れた金融危機を招いた張本人だと考えていたとしても、彼らから学ぶことは多い。

 そして本書では様々な統計データ、社会実験の結果、各分野の研究結果を示しつつ、人類が共存する”ユートピア(理想)”の実現は決して不可能ではないこと、またその実現のためには、以下の3つの政策がすぐにでも導入されるべきだと提言する。

  • ユニバーサル・ベーシックインカム(収入など受給制限を付けず最低限暮らせる一定額を国民に給付)
  • 労働時間の短縮(具体的には一日三時間労働)
  • 貧困の撲滅(具体的には国境線の開放、移民の受け入れ)

 一見、何とも”非”現実的な提言なのだが、ざっくり要約すると「どんな”非”現実的な事柄も時間が経てば当たり前のことになっているものだ」と筆者は意に介さない。理想主義者を揶揄するのは簡単なことだが、情熱を持って”理想”を実現しようと活動している”現実主義者”は、やっぱりかっこいいな。

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 なお、ベーシックインカム本の定番である財源シュミレーション的なものはカットされている。その辺りが気になる方は、こちら。(私にはチンプンカンプンで、全くお手上げだったが…改めて読み直したい、理解したいと思わせる内容だった)

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 最後に、ブレグマン氏の力強いメッセージを紹介しておこう。

 最後になったが、本書が提案したアイデアを行動に移す用意ができている全ての人に、2つのアドバイスをしたい。まず、世の中にはあなたのような人がたくさんいることを知ろう。それも大勢いるのだ。本書のアイデアを信じるようになってから、この世界が堕落した欲深い場所に見えるようになったと、無数の読者がわたしに語った。彼らに対するわたしの答えはこうだ。テレビを消して、自分の周りをよく見て、人々と連携しよう。ほとんどの人は、優しい心をもっているはずなのだ。

 そして2つめのアドバイスは、図太くなることだ。人が語る常識に流されてはいけない。世界を変えたいのであれば、わたしたちは非現実的で、無分別で、とんでもない存在になる必要がある。思い出そう。かつて、奴隷制度の廃止、女性の選挙権、同性婚の容認を求めた人々が狂人と見なされたことを。だがそれは、彼らが正しかったことを歴史が証明するまでの話だった。

  スピーカーは異なるが、こちらも納得させられる名スピーチである。

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