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悩みどころと逃げどころ

 カリスマ的人気を誇る社会派ブロガー・ちきりんさんと、世界的プロゲーマー・梅原大吾さんの対談本「悩みどころと逃げどころ」を読んだ。

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 異なる世界で名を上げ、年齢差も、学歴差もある二人が足かけ4年、100時間にわたって対談をした結果、本書が生まれた。学校教育の在り方から人生論まで”本音”が詰まった良書だ。本質をついた問題提起を受けた応答がまたユニークで、まるで将棋の真っ向勝負を見ているようだ。”自分の頭で考えること”を性分とする二人だからこそ、意見が割れても相手の意見を尊重できるし、また臆することなく持論を述べられるのだろう。(若い頃の自分に読ませたい一冊だが、もう遅いので姪っ子への誕生日プレゼントに決定!)

 早くから自らの天職と言えるゲームの才能を開花させ、ひたすらゲームに打ち込み14歳で世界王者となった梅原大吾さん。ゲーマーの社会的地位の低さや高卒の学歴ゆえに世間から認められず悩み苦しんだ時代もあったそうだが、生来のストイックさやゲームに対する思い入れにより自らの行くべき道を確信し、日本におけるプロゲーマーとしての道を切り拓いてきた先駆者だ。一方、ちきりんさんは様々な媒体を通じて社会提言を積極的に行う(本人の言葉では”煽る”)覆面ブロガーとして知られていて、公式的には素性を明らかにしていないが、世間の流れに従って高学歴、外資系企業に進んだエリートだ。しかし世界旅行が好きで、仕事で活躍しながらも自分らしい生き方が定まってからは”エリート列車”を途中下車することに迷いはなかったようだ。今では人気ブログ「Chikirinの日記」のアクセス数がすごいだけでなく、著書が書店に山積みされたり、各地で講演活動を行ったり、”ゆるい人生”を謳歌しながらも幅広く活躍している。

 二人の違いは「半径2m以内に興味を持てるかどうか」に表われているという、ちきりんさんの言葉が印象的だった。すなわち、ちきりんさんは「自分のことも含めて半径2m以内には全く興味を持てない」が、梅原さんは「半径2m以内に興味を持てるというか、それが全て」だという。この違いは性格というよりは実社会での経験や年齢差によるものと思われるが、今後さらに梅原さんが活躍の場を広げていくならば、その見解が変わっていくのかもしれない(その点については最終章あたりでちきりんさんが指摘している)。さらに勝手な推測だが、昔ながらの職人さんが持っているようなストイックなまでのこだわりや保守性が特長の梅原さんはさておき、社会人としての経験が豊富なちきりんさんは「この類まれな、超リスペクトすべき若者が相手では、”自分”全開で臨むのが最高のマナー」だと思っている節がある。彼女の上手な”誘導”により平易な言葉のやりとりの中にも深みが生まれ、本質的な議論が生まれたのだろうと推測する(年上エリートの上から目線というより、前途ある若者を前にした包み込む”母性愛”を感じた)。

 二人とも自分基準で生きていて、他者の評価に依存していない(それは他人基準を無視し、他者の評価を気にしないということではない)。だからこそ、それぞれが活躍できる超ニッチな分野を見つけることができたのだろう本書が投げかけるメッセージを要約すると「あなたが自分らしく生きられる超ニッチな分野、つまり自分の居場所を見つける(なければ創る)まで、あがき続けなさい(もちろん”逃げ”もあり)」ってことかな?昔のギリシア哲学者たちも毎日こうした熱い議論を愉しんでいたのかもしれない。実に羨ましい関係性だ。(以下『悩みどころと逃げどころ』より一部抜粋。やりとりは連続していない箇所あり)

ちきりん:(中略)素直に育ってきた人が自分の人生で「何か違う」と感じた時に必要になるのが、学校で刷り込まれた「あるべき論の呪縛」から解き放たれることなんです。「回り道をするなんて無駄!」みたいな考えからの脱却がまず必要になる。

 

ウメハラ:僕たちはその回り道こそが「いい人生」の原点だと思ってるわけだから、(中略)。しかもたとえ何も見つからなくても、とことんあがいておけば、「自分にはそこまでやりたいことがないんだから仕方ない。それならそれで生きていこう」って開き直れる。それを自分の器として納得できる。そう考えるのはやっぱり難しいのかな?

 

ちきりん:そのあがくプロセスにおいて私が大事だと思うのは、「つらかったら逃げる」ってことなんですよね。

ウメハラ:えっ、ちょっと待ってください。逃げる!?そんな簡単に逃げちゃダメでしょ!?

(中略)

ウメハラ:逃げなのか、積極的な選択なのか、見極めは難しいですよね。でも、たいていは逃げだと思うんです。単に根気ややる気がないだけの人間も、世の中にはたくさんいますから。僕はそういう人間をかなり見てきたんで。

 

ウメハラ:ただ、ちきりんさんの言ってる”逃げる”っていうのは、ちょっと違う気もします。「自分で自分の居場所を創る」ってほうが、言葉として合ってるかもしれない。

ちきりん:私が敢えて”逃げる”という言葉を使うのは、世の中、絶対に逃げちゃダメって思ってる人が多すぎるからかも。やめることは逃げじゃなくて、自分の好きなもの、自分に合ってるものを見つけるためのプロセスのひとつなんだから、絶対やっちゃいけないことではないんだよ、って伝えたいのかも。

(中略)

ちきりん:多くの人にとって「自分はぜったいコレがやりたい!」なんて、ある種の熱病みたいなものなんです。熱病にかかってる時は、それが人生のすべてだと思える。で、頑張る。頑張った人のうち、才能も併せ持ってて、かつ尋常じゃないレベルの努力ができた、ごく一部の人だけが成功する。成功した人にとっては、その道は熱病による幻想ではなく現実になるし「唯一無二のモノ」になります。でも、大半の「夢破れる人」にとっては、「ホントにやりたいこと」は別にあったとも考えられる。てか、そう考えればいい。大事なことは、「何が本当の天職だったのか?ではなく、「自分は自分の選んだ道を天職だと思えたか?」ってことなんじゃないかな。