のんびり寄り道人生

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みにくいアヒルの子〜アンデルセン童話全集III〜

 子供の頃はほとんど本を読まなかった。学校で使う国語の教科書くらいしか読書の記憶がない(楽そうだったので図書委員っていうのはやってたけど)。半ば義務的に読書を始めたのが大学の頃からで、その“味”を覚えたのは、恥ずかしながら社会人になってからである。そして子供時代の空白を埋めるかのように、児童文学を今更ながら読み始めている。アンデルセン童話全集IIIもそんな中、手にした1冊だ。

 

 国際アンデルセン賞受賞画家ドゥシャン・カーライ夫妻が、4年の歳月をかけて全てのアンデルセン童話に挿絵を描いたという渾身の全集だという。童話を読み進める前に、大型本のページを1枚1枚繰りながら、まずは画集として眺め見る。柔らかな線と、重なる色味が味わい深く、物語の世界に引き込んでくれる。

 

 この第Ⅲ巻に収録されているのは、「旅の仲間」「みにくいアヒルの子」「ヒツジ飼いの娘とえんとつそうじ人」「影法師」「すべて、あるべきところに」「賢者の石」「エンドウマメの上に寝たお姫さま」「氷姫」「子ども部屋で」「名づけ親の絵本」「だれが一番幸福だったか」「ノミと教授」など48編。中には大人が読んでも難しい内容もある。アンデルセンは子供たちにどういうメッセージを送りたかったのだろう?と思ったが、子供の感性なら案外そうは感じないのかもしれない。少なくとも「大人の」自分に向けて書かれた話ではないと読み飛ばすことにした。そして、ぼんやりした記憶の中に、かろうじてストーリーが残っている「みにくいアヒルの子」を読み始めた。

 

 身体が大きく、みにくいアヒルの子を、母アヒルは周囲の蔑みを跳ね返しながらも信念を持って育てる。しかし、時間が経つと母アヒルからも「こんな子なら生まれない方がよかった」と疎んじられるようになる。仲間たちからは突つかれ、鶏からは羽でぶたれ、エサやりの娘からは足で蹴られ、堪たまりかねたアヒルの子は家を出る。その後、鴨や雁に出会い、ようやく仲間に入れてもらえると安堵するのも束の間、また一人ぽっちに戻ってしまう。そして嵐の中、ようやく一軒の小屋にたどり着く。そこには雄猫、雌鶏を飼う女主人が暮らしていて、何とかそこに住むことを許される。しかしアヒルの子が産む卵目当ての女主人や、自分達が世界の半分ずつだと思っている雄猫、雌鶏と、折り合うはずもなく、アヒルの子は広く美しい外の世界に飛び出す。再び、アヒルの子は孤独になる。

 

 その後、美しい白鳥の群れに出会うのだが、アヒルの子がその集団に交じるのは、まだまだ先の話だ。冬の間、足をバタバタさせながら凍えた池を泳ぎ回らなければならなかったし、優しい百姓に拾われ親切にされても「またいじめられる」と恐怖して、すぐに逃げ出してしまう。やがて難儀した冬が去り、春が訪れる。アヒルの子は自分で羽ばたくことを初めて覚えた。そして「殺されること」を覚悟して、あの美しい白鳥の群れのところに飛んで行った。

 

 その後のハッピーエンドは言わずと知れた話なので省略する。今回、この話を読みなおしてみて、改めて深い話、良く出来た寓話だと感じた。ウィキペディアアンデルセンの自伝を読む限り、アンデルセン自身の人生を物語っているようにも思うが、何より自分の人生にも共感することが多く、朝の喫茶店で思わず涙がこぼれ落ちた。

 

青空文庫

醜い家鴨の子 DEN GRIMME AELING

ハンス・クリスチャン・アンデルゼン Hans Christian Andersen

菊池寛

http://www.aozora.gr.jp/cards/000019/files/42386_21530.html

 

ウィキペディア

ハンス・クリスチャン・アンデルセン

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%B3

 

アンデルセン自伝 ぼくのものがたり

いわさき ちひろ (挿絵), 高橋 健二 (翻訳)

http://www.amazon.co.jp/dp/4062128055