のんびり寄り道人生

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こわいもの知らずの病理学講義

 仲野徹著「こわいもの知らずの病理学講義」を読んだ。

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 著者の仲野教授大阪大学医学系研究科で病理学を教えている。職業柄、近所のおっちゃんやおばちゃんから、病気について尋ねられることが多いらしく、「えっ、そこまで何もわかってないのか」と思うことがしょっちゅうあり、また新聞や週刊誌に掲載された病気の記事についても記者の理解不足に呆れかえることが多かったらしい。「ごく普通の人にも、ある程度は正しい病気の知識を身につけてほしい」との願いから、本書が誕生したという。

 著者による本書の紹介(要約)が、なかなか笑える。

 講義のアンケートをとると、本題である病理学の内容も雑談のように元気よく面白くしてくださいという無理な注文をする学生がいます。また、ごく少数派ではありますが、雑談は時間の無駄ですからやめてくださいという、わたしにはまったく理解不能なことを言う子もいます。雑談内容は病理学よりも学ぶことが多い、とまでは言ってもらえませんが、おおむね好評であり、雑談を楽しみに出席してくれる学生もたくさんいるほどです。

 ここまで書くとおわかりいただけたかと思いますが、それぞれのトピックに関係する雑談をかましながら病理学総論のエッセンスを語っていく、という、知的エンターテインメントをめざすのがこの本です。病気ってこうやって成り立っていたのか「ガッテンガッテン」と読み進み、あははと笑い、我々の体はなんとすばらしくできているのか、あの人の病気はこんな感じでなりたっていたのか、と時に考え込んでいただけたら幸いです。

 例えば書名に付けられた”病理学”の定義について。

 これは病の理(ことわり)、言い換えると、病気はどうしてできてくるのかについての学問、ということになります。

「病理学講義」という一般人(医療・医学に関わりのない人)には無縁そうな、敷居の高い書名が付けられているが、講義内容は高校生物をある程度理解していれば、すんなり読み進められるレベルだ。病理学界の異端児!?を自称する阪大の名物教授が放ったベストセラーは、その道の”権威”の間でどのように評価されているのだろう。「こわいもの見たさの医学界講義」など、ぜひシリーズ化を希望する。

 この本は、タイトルにもあるように、病理学についての本です。わたしは病理学講座の教授で、学生に病理学総論を教えています。けれども、病理診断ができる病理医ではありません。わたしが今のポストについた頃、病理医ではない病理学の教授が東大と京大の医学部にも一人ずつおられました。今は少しずつ変わってきましたが、病理の教授といえば病理医であるべきというのが昔からの世間の相場です。そんな状況をふまえて、そのうちのお一人である東大のM先生が、我ら三人を「病理学不良三兄弟」と命名されました。言い得て妙、東大の先生はセンスが違います。

 この不良達、そろいもそろって態度は大きいのですが、いかんせん病理学の世界では少数派の異端であって、すこし肩身がせまい思いをしていました。ですから、三兄弟の末弟であるわたしが「病理学」について書くというのは、病理学の世間的には、すこしばかりおそれおおいことなのです。そんな気持ちをこめて、タイトルに「こわいもの知らず」という言葉をいれました。もう一つ、凡庸なことばかり書いてもおもしろくないので、ところどころは、批判をうけること覚悟で思い切ったことも書いてみようかと思っています。その決意ーというほどではありませんがーも「こわいもの知らず」にこめたつもりです。