のんびり寄り道人生

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これからの日本、これからの福井~豊かな森と動植物から考える~

 インターネット動画で、ブータンミュージアム4周年記念事業「これからの日本、これからの福井~豊かな森と動植物から考える~」と題した講演会・座談会を観た。

 

運営元(GEN)によるフル・バージョンの動画

ブータンミュージアム4周年記念事業「これからの日本、これからの福井 ~豊かな森と動植物から考える~」

 

 敬愛する養老孟司先生の基調講演目当てで観始めたのだが、福井県立大学長・進士五十八(しんじいそや)氏の基調講演も大変興味深く、(最近、家の庭いじりを始めたせいか)共感する発言が多かった(時々挟み込まれる”セールストーク”は立場上やむをえないかな…)。また自然史映像制作プロデューサー・伊藤弥寿彦(いとうやすひこ)氏が制作したブータン映像(養老先生とのブータン南部ダガナ旅行を撮影したもの)も見応えがあり、約2時間の動画をあっという間に観終え、BGM代わりに何度か再生してしまった。

 以前からヒマラヤ山脈の東端にある仏教王国ブータンという不思議な国には関心があった。国民総幸福(GNH=Gross National Happiness)」を国是として掲げ、美男美女として有名なグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王とジェツン・ペマ王妃も世間で話題になった。

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 2010年9月から2011年9月までの1年間、ブータン公務員(首相のフェロー)であった御手洗瑞子さんのブログ「ブータン公務員だより」やインタビュー記事が、とても面白かったので、いつか機会があればブータンに行ってみたい!と周囲に言い募っていたが、なかなか機会に恵まれず、先を越された友人からの土産話と、数枚のスナップ写真で満足するほかなかった。けれども、今回、プロ(伊藤氏)が撮影した見事な映像と、詳しい解説のおかげで、まるで自分がブータンを旅してきたような気分になった(緑豊かな山岳の風景が以前旅したラオス北部と重なって、追体験しやすかったせいかもしれない)。おまけに養老先生のお宝映像!?(僧侶による声明が鳴り響く寺の中、グッスリ居眠りされていた)も微笑ましかった。またポブジカという場所に養老先生が仏像を寄進(今回の場合、正確には「開基」というらしい)されることに至ったいきさつも紹介された。養老先生によると、親交のある僧侶に「日本人はお金持ちですよね?」と言い寄られ、「(断るのが)面倒くさかったから」資金提供を引き受けたのだという。(半分は本当だろうが、)いかにも養老先生らしい”照れ隠し”のように感じた。

 後に続く座談会もゆるく和やかに進行し、会場からは自然に笑い声が沸き起こっていた(これまで数多くの講演会、座談会を観てきたが、演者がリラックスして本音で語っている講演会、座談会に、ほぼ”ハズレ”はない)。そしてプログラムの終盤になって、のんびり人と共生しているブータンの犬たちの映像が流れた後、話題は日本に移った。(以下、養老先生の発言を一部抜粋。太字は引用者)

前にテレビでやってたけど、滋賀県のお寺が猿の害だとか言ってね。お坊さんが出てきて、「1億円かけて防御した」とか言う。「犬飼え!犬飼え!」って(テレビに向かって言っても無駄なんですけど)言ってました。

 一昨年か去年か忘れましたけど、『患者よ、がんと闘うな』の近藤誠先生(慶応大学)と対談やったんですけど、題は『犬バカ猫バカ』ってね。近藤さん犬が好きで、うちに犬連れてきたんですよ。飼い犬、自分の。何ていう種類か知りませんけど3.5キロなんですよ、ちっちゃい。うちの猫はね、「まる」っていうんですけど7キロなんですよ。(笑)でね、3.5キロの犬はね、犬だから紐でつないでいるんです。うちの猫は7キロだけど、猫だから放し飼いなんです。(笑)「何であんなちっこい犬をつなげなきゃいけないんだよ」って理解できないんです。

 咬もうとしたら蹴っ飛ばしゃいいじゃないですか、別に。でしょ?もう日本は狂犬病ありませんし。そうすると「咬む」っていうんですよ、犬は。ブータンの人も知ってますよ。小学校の先生に聞いて「犬は咬むからね」ってこと、ちゃんと言ってます。分かってるんですけど、僕らは子供の頃は、犬は放し飼いでしたよ。だから咬まれてるんですよ、僕らは。どうってことないんです、そんなもの、狂犬病なければ。

 それで「犬は咬む」って言うけれど、皆さんお分かりでしょう?旧約聖書じゃないけれど、聖書って「モーゼの十戒」でも「人を殺すな」って、なってますよね?何で人殺しなくならないんですか?だから「人殺す人は必ずいる」と思うしかしょうがない。それと同じで、咬む犬はいるんですよ。だから「犬は咬まない」とは言いませんけど、でも、あれをつないで管理している社会は、人間はどうですかね?僕、同じように紐ではつながないけど、皆さんいろんなことでつながれて、それがストレスとか思ってるんじゃないでしょうか?それは僕、かなり感じます。

 ブータンの犬見てると、面白いんですよ。ティンプー(引用者注:ブータンの首都)の目抜きの交差点ね、一度信号付いたんですって。私、知りませんけど3個ティンプーに信号ができた。午前中にできたらしいんですけど、王様が午後気が付いたんですって。王様何て言ったかって言ったら、「全部取っ払え!」って。それで今ないんです。それでガイドが言ってましたけど、「可哀そうに」って。付けた官僚は首になったらしいです。

 皆さん分かります?その理屈。「何で人間が機械に左右されなきゃならん」そういうことだと思うんですよ。そうでしょ。赤だったら止まる、緑だったら行くと決めてません?だから、さっきの交差点のド真ん中で犬が寝てるんですよ。そうすると車がよけるんです、犬を。車が少ないから、そんなことできるんだろうとかお考えでしょうけど、それが典型的なブータンの価値観ですよね。そうすると生きることが先になってますよね、犬も人間も。

 人間増えるとやっぱり管理しないとやっていけないんだろうなと同情はしますが、でも進歩した社会ってどっちなんでしょうね。で、管理してキチンとなるなら、僕流に考えると、それは当たり前です。そうでしょ。だってルールがあるんだもん。それでやんなきゃなんない社会は明らかに「退化した社会」ですよね?

 本当はブータンの王様じゃないけど、信号なくたって、ちゃんと車はお互い同士、あるいは歩行者、犬見て走れるはずだって。だから人間に対する要求度は実はブータンの方が高いです。そうでしょ?管理すれば、ルールにすれば、皆さん方は実は楽です。「だって信号が赤なんだもん、だから止まってる。青だから通った」そういうもんでしょうかね、人生って…。だから、その辺からブータンに行くと考えさせられるんですね。どっちがいいとか悪いじゃなくて。そういう意味で私、時々ブータンに行って、なんかホッとするんですね。